歌野晶午「葉桜の季節に君を想うとういこと」感想 (ネタバレあり)

久々に読んだミステリ小説。すっかり騙されたのも気持ちよかったし,いろいろと考えさせられるところもあり,大変満足。頑張って生きよう。

 

小学生で江戸川乱歩を読んでから推理小説にはまり,中高生でアガサ・クリスティなどの古典ミステリ,大学の時は新本格ミステリを読み漁った。

歌野晶午新本格の中の一人だったと思うが,自分が読んだのは今回のものが3作目。音楽界を舞台にした「ROMMY 歌声が残った」が印象に残っている。

 

 

 

「葉桜の季節に君を想うということ」だが,このミスで1位になったとか,様々な賞を取ったとかで話題作。でも,驚くべき仕掛けがあってストーリーを紹介できないなどと帯に書いてある。

つまり叙述トリックなわけです。今までも様々なパターンのものを読んでいるので,読む際にも気を付けて読むわけです。

でも,見事に騙されました。

主人公である成瀬将虎が,悪徳商法「蓬莱倶楽部」に関する事件を調べるのがメイン。そこに,自殺を助けた麻宮さくらの物語,蓬莱倶楽部に翻弄され続けている古谷節子の物語,田舎を捨てて都会で暮らす安藤士郎の物語が平行して動いていく。

それらが交わったときに,驚愕の真実が明かされるという仕組み。事件自体は,密室とかトリックがあるわけではなく,私立探偵そしてなんでもやってやろう屋として生きる成瀬将虎の人生や蓬莱倶楽部に翻弄される人々について描かれていく。社会派ミステリというやつ?なのかもしれない。

でも,その裏に大きな仕掛け,叙述トリックがあるのがミソ。大どんでん返しが待っている。

 (ここからネタバレ) 

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この叙述トリックは,若者だと思っていた主人公たちが実は老人だったということ。

成瀬将虎の若いころの物語であったり,フィットネスクラブの様子だったりがミスリード。ときどき挿入される暗闇で土を掘るシーンがヒントにはなっているのだが,情報量が少なすぎて分からない。

一番の驚きは古谷節子=麻宮さくらだったことだろう。登場人物たちが老人だったという時点で十分に可能性はあるのだが,この展開は予想していなかった。

様々な事件を引き起こして,巻き込まれた登場人物たちが,それでも前に進もうという思いに胸が熱くなる。

年齢に関係なく,生き生きと様々な難題に取り組み乗り越えていこうとしている。新しいことをするのも,人を想うのも,幾つから始めようといいじゃないということ。

 

自分もいいおじさんで,ただただ流されて動いていることも多いのだが,もう少しだけ頑張ってみようかなという思いになった。